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高齢入居者の孤独死リスクに備えるには?~賃貸オーナーが取るべき5つの対策~

はじめに

賃貸経営をするにあたりリスクは数多く存在しますが、今回はその中でも比較的皆様が想像しやすい『高齢入居者の孤独死』に関しそのリスクと対策についてご説明いたします。

高齢者入居が増加している社会背景とリスク

近年入居希望者は増加傾向にあり、エリアにも因りますが、オーナーとして高齢入居者を多少なりとも受け入れることは、入居率の維持に必要不可欠になってきております。

では、どのような社会背景で高齢者が増えてきているのか、そして高齢者を受け入れるとどのようなリスクが発生するのでしょうか。

社会背景

・日本は高齢化率が29%を超える『超高齢社会』
→『高齢化率』とは、対象地域総人口に占める65歳以上の人口割合です。GLOBAL NOTEによると、2023年の高齢化率世界1位はモナコ(36.36%)で、日本(29.56%)が2位となっています。3位はプエルトリコ(24.24%)でした。

80年代まで日本の高齢化率は世界でも下位の方で、90年代もそれほど高くありませんでしたが、『人口減』と『高齢者の死亡率低下』という2つの要素の影響が大きくなった2000年代以降は急速な伸びを示し、それ以降は世界でも群を抜いた高齢化率となっています。

今後もこの傾向は続く見込みで、日本の高齢化率は上位をキープしていくことが予想されています。

・単身高齢者世帯が増加
→厚生労働省が発表した2023年国民生活基礎調査の概況によると、65歳以上の単身高齢者世帯は単身世帯のうち855万3000世帯で、2001年比2.7倍となっており、割合も単身世帯全体の46.2%を占めています。

・高齢者の持ち家率の低下
→日本での高齢者の持ち家率は8割以上と高いですが、近年特に単身高齢者の間で低下傾向がみられます。これは老後に備えて賃貸住宅を選択する高齢者が増えていることや、住宅管理の負担から賃貸を好む高齢者が増えてきていることなどが要因と考えられます。

主なリスク

・孤独死
→発見が遅れると原状回復費用(特殊清掃等)に加え、心理的瑕疵として次の入居募集時に告知する必要が発生する可能性があります。その場合、相場賃料よりも低い賃料で募集しなければ入居が決まらないことが多いです。

・事故
→高齢者に限ったことではないですが、転倒・火の不始末などによる住宅内事故の増加が考えられます。

・認知症
→オーナーや管理会社との円滑なコミュニケーションが難しくなり、ごみ出し・騒音・徘徊など近隣トラブルの要因にも繋がります。

孤独死が発生した場合の手続きと費用負担

前項で述べたリスクの内、特にオーナーにとって重要な『賃料の低下』を引き起こす可能性のある『孤独死』が実際に発生してしまった際の主な流れと費用負担について説明します。

発見後の主な流れ

①警察への通報
→孤独死を発見した際最初にするべきは警察への通報です。異変や異臭に気づいた際は速やかに警察に通報し室内の確認をしてもらい、事件性が無いか等を調べてもらうことが必要です。その後行政や医療機関により遺体の収納が行われます。

②遺族への連絡・遺品整理依頼
→警察が遺族へ連絡をしてくれます。遺族がいない際は賃貸借契約の連帯保証人に連絡を行います。

部屋の遺品整理・処分の主な責任は相続人や連帯保証人にあります。相続放棄や、そもそも相続人が存在しない場合、また、連帯保証人を設定していない場合は基本的にはオーナー負担で遺品整理・処分を行う必要があります。(保証会社の利用がある場合は負担をしてくれる可能性もあります。)

③特殊清掃業者の手配
→遺体の状況によっては『特殊清掃』と呼ばれる血液や体液、悪臭などの汚染を専門の技術と機器を使って除去・消毒・脱臭する清掃作業を行う必要があります。専門の業者が何社もありますので、費用感等含め選定し依頼を行ってください。

④原状回復工事
→室内の状況によっては通常よりも多く原状回復費用が掛かってしまう可能性があります。

相続人や連帯保証人が要る場合でも、経年劣化も含めて負担分を算出しますので、通常の退去に比べ、オーナーの負担増加は避けられない可能性が高いです。

⑤近隣住民への説明対応
→基本的に室内で孤独死が発生した場合、同建物内の他号室に告知をする義務は無いですが、近隣とのお付き合いや、事実以上の噂を流されることを防ぐためなど、状況に応じて説明会や、説明文の投稿等も検討してもいいかもしれません。

⑥心理的瑕疵としての告知の検討
→孤独死が心理的瑕疵に値するかどうかは明確な決まりはなく、告知をしないで売却や賃貸を行うことも可能ではありますが、後々心理的瑕疵に該当すると判断された場合、損害賠償請求等のトラブルにもなりかねないため、ガイドラインや通例を把握し、しっかりとした判断をすることが必要です。

想定される費用・支出(目安)

物件で孤独死が発生してしまった際、以下のような費用・支出が発生することが考えられます。

・特殊清掃費用:15万~50万円以上(内容による)

・原状回復費用:15万~100万円

・遺品整理:10万~30万円

・次回入居までの空室期間の賃料損失             

各費用に関しては、保険・保証会社・連帯保証人・遺族等に負担してもらえる部分もある可能性があるため、発生後(できれば発生前から)各所にしっかりと確認を行うことが重要です。

告知義務・心理的瑕疵への対応と再募集のポイント

孤独死が発生してしまった際、告知義務や心理的瑕疵に該当するかは、明確に判断することは難しいですが、一定の基準に沿ったガイドラインを参考にし、対応・再募集を行うとよいでしょう。

告知義務の考え方(国交省ガイドライン参考)

・自然死や老衰による死亡→原則、告知義務なし

・孤独死(発見遅れにより影響が大きい場合)→告知が必要なケースあり

・発見から時間が経ち、再募集後に新たな賃借人が入居した後は、原則告知義務なし

再募集時の工夫

・事実関係を丁寧に説明(心理的瑕疵の程度を正確に伝える)

・実際の原状回復・清掃内容を提示して安心感を与える

・家賃や敷金の調整で受け入れられやすくする

契約時にできる予防策

賃借人が入居する際に、万が一孤独死が発生した際の予防策をとっておくことも重要です。

緊急連絡先の工夫

・家族・親族以外(民間保証人サービス、後見人、福祉機関)も検討
→家族や親族とはいえ、面倒な手続き等を嫌がり、真摯に対応してもらえなく、対応完了まで時間と労力を大幅に消費してしまうことも有るでしょう。そういったことを防ぐため、あらかじめその働きを約束してくれるような第三者機関等を使用するのも一つの手です。

・複数名(最低2名)記載を義務化
→1名のみ設定の場合、その方と連絡が取れなくなってしまい、手詰まりとなることを防ぐためです。

見守りサービスの導入

・センサーやIoT機器で室内の動きを監視(数日動きがなければ通知)

・民間見守りサービスと提携(郵便局、セコム、ALSOKなど)
→孤独死発生から発見まで時間がかかり、部屋が必要以上に損傷してしまうのを防ぐためです。心理的瑕疵の告知時、少しでも新入居者・検討者への心象を抑えるためにも、早めの発見が肝心です。

入居時ヒアリング

・健康状態、介護サービスの有無、かかりつけ医の確認

・定期的な聞き取りや更新書類の導入
→申込が入った際、管理会社や客付業者へいつも以上に現在の健康状態や通院状況等ヒアリングを行ってもらうと、表面上は見えない意外な懸念点等が見つかるかもしれません。

保険・サービスの活用方法

いざ孤独死が発生し、原状回復やその他の費用負担がオーナーに降りかかってきてしまった場合、保険や保証サービスに加入していれば、負担を防げる場合もあります。 下記はその一例です。

孤独死保険

・特殊清掃・原状回復・空室補償をカバー

・物件オーナーが加入可能(例:リビング保証「みまもり保証」)

家賃保証会社

・家賃滞納時だけでなく、孤独死発生時の緊急対応支援サービス付きプランもあり

・高齢者向けの受け入れに積極的な保証会社を選ぶ

モニタリングサービス

・室内温度センサー・ドア開閉感知器などの設置

・定期レポート付きプランで安心

管理会社に任せるべき範囲とオーナーが確認すべきこと

集合住宅の場合、管理会社に管理を委託している方がほとんどかと思いますが、その際孤独死に関し、管理会社に任せるべき業務と、オーナーが自ら確認・指示すべきことをしっかり明確化し、認識しておくことが重要です。

管理会社に任せるべき主な業務

・入居者のヒアリングと書類管理

・見守りサービスや保証会社との連携

・緊急時対応(発見・通報・遺族対応)

・告知義務の判断サポートと再募集

オーナーが確認・指示すべきこと

・高齢入居者向けの対応マニュアルがあるか

・孤独死発生時の対応フローの整備状況

・保険・見守り・清掃会社との提携状況

・原状回復・心理的瑕疵の説明方針

まとめ:オーナーに求められる視点とは?

これまで、賃貸経営と孤独死の関係性・リスク・対応方法等について説明してきましたがいかがでしたでしょうか。

賃貸のオーナーとして高齢者の受け入れは、事前準備を行うことで、リスクを抑えながら社会的課題にも貢献でき、空室対策としても今後さらに重要なテーマとなっていくことでしょう。

『人を受け入れる責任』と『資産を守るリスク管理』をバランスよく両立し、より良い賃貸経営を目指していきましょう。