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自然災害後、賃貸オーナーにどこまで責任がある?~入居者対応と法的リスク~

はじめに

賃貸オーナーにとって自分の物件に降りかかってきてほしくないと誰もが思っている『自然災害』。もちろん物件自体の損傷という直接的な被害は容易に想像できますが、こと入居者への対応となると、どのようなことを想定し、対策・対応をしていけばいいのでしょうか。

自然災害で起こる主なトラブル例

代表的な自然災害が発生した際の主なトラブル例を挙げていきましょう。


【台風・強風】
主な被害・トラブル:雨漏り、屋根・窓ガラス破損、倒木、外壁のはがれ、飛来物の衝突
→共用部や外構に大きな影響を与えるほか、ガラスの割れた窓から侵入した飛来物や雨による入居者の家財道具の損傷、雨漏りによる内装・設備・家財道具の損傷等も発生する可能性があります。

【地震】
主な被害・トラブル:建物の亀裂・傾き・家具の転倒・配管損傷・ガス遮断
→建物の傾きやゆがみにより、建具が動作しなくなることや、ライフライン供給設備の損傷により、室内が使用不能となり、入居者が生活できなくなる事態が生じやすいです。

【豪雨・水害】
床下/床上浸水、電気設備ショート、カビ発生、悪臭
→天井・外壁からの漏水による内装・設備・入居者家財の損傷被害、下水の逆流等が発生する可能性が考えられます。

【停電・断水】
冷蔵庫の故障、照明・空調停止、トイレ使用不能
→こちらは上記自然災害により引き起こされる二次被害の可能性が高い事項です。
共用部設備(ポンプ・エレベーター)にも影響が及ぶ可能性もあります。

損害賠償請求されるケースとその際の責任有無

実際に上記のような自然災害により、入居者や近隣に被害が発生してしまった場合、損害賠償を請求されやすい例と、その際のオーナー責任の有無についてみていきましょう。

【管理不備により雨漏り・損害が拡大】
損害賠償責任の有無:有
→屋根や外壁が劣化しているにもかかわらず、長年放置していた場合、災害に対する準備が不十分だったとして、オーナーに責任が発生してしまう可能性が大きいです。

【老朽化による倒壊・落下物被害】
損害賠償責任の有無:有
→建物の修繕・点検を怠ったことによる上記被害の場合も同様に過失とみなされ、オーナーに責任が発生してしまう可能性が大きいです。

【飛来物が他の敷地・車両に被害】
損害賠償責任の有無:場合による
→自身の敷地内に置いてあった設備等が加害物である場合、固定等に不備があればオーナーに責任が発生する可能性がありえます。

【地震による室内破損(テレビ破損等)】
損害賠償責任の有無:原則無し
→地震は不可抗力且つ物件オーナーとしてこれといった対策も難しいため、基本的には責任が発生する可能性は低いです。

【台風で停電し家財に損害】
損害賠償責任の有無:原則なし
→自身と同じく、停電自体にはオーナーに責任は発生しにくいことが考えられますが、オーナーとしての対応の遅れ等により被害が拡大してしまった際には責任が生じてしまう可能性もあります。

【その他】
老木を放置、剪定を怠った場合の倒木や、排水口の清掃未実施など、予見可能な対策を怠っていたことにより通路や階段が水浸しになってしまったことによる転倒被害等もオーナー責任を追及されてしまう可能性があります。

☆チェックポイント
入居者の損害賠償請求が認められるかは、『オーナーに管理過失があるかどうか』によって大きく変わります。

火災保険・地震保険・家財保険の適用範囲と必要書類

自然災害による損害の修繕・賠償費用は大きい金額になることが多いため、自己資金からの手出しは相当な負担となってしまいます。
そのため、基本的にはまずは加入している保険の確認・活用をお勧めいたします。

保険の種類とカバー範囲

【火災保険(オーナー用)】
適用範囲:台風・火災・水害など
主な対象:建物・共用部の修繕費用

【地震保険(火災保険の付帯)】
適用範囲:地震・津波・噴火
主な対象:建物・設備の損壊

【家財保険(入居者加入)】
適用範囲:家具・家電などの損害
主な対象:家財

★保険申請に必要な書類
◇被害状況の写真(ビフォー/アフター)
◇被害報告書(簡潔でよいが日時・原因・内容は明記)
◇修繕見積書
◇建物の登記簿謄本(地震保険申請で求められる場合あり)
◇罹災証明書(地震・水害・火災などで自治体が発行)

初動対応で失敗しない『5つの連絡先』と優先順位

自然災害が発生した際、主に以下の5つの手順で連絡・確認を行っていくことを覚えておくと、無駄な手順を踏んだことによる対応の遅れ等が最小限に抑えられる可能性が高いです。

【①管理会社(委託している場合)】
オーナー自身がすぐに直接物件の確認が出来なく、管理会社に管理を委託している場合は、まずは管理会社へ連絡。状況の確認の依頼と、入居者への対応指針を改めて指示することが重要です。

入居者への対応指針の指示は、混乱時に管理会社が入居者に対してオーナーの意向とは異なる不十分な対応を取ったことによる、後々のオーナーに対する入居者からの不信感を発生させない防止策でもあります。

管理会社に管理を委託している場合は以下の②~③も基本的には管理会社任せの方がスムーズな可能性が高いです。管理会社に一任した場合、特に入居者へはオーナー自身からの連絡は控えましょう。『言った言わない』や、情報の錯綜を防ぐためです。

【②入居者】
直接的な被害を被った入居者は、向こうから連絡が来る可能性が高いです。ただし、軽微な被害の場合面倒な気持ちが勝ち、連絡をしてこず、後々重大な二次被害につながる可能性もあるため、連絡が無い入居者にも安否確認も含め、何らかの方法でこちらから連絡をすることをお勧めします。

【②自治体・消防・警察】
火災や、倒壊・倒木等による道路封鎖などが発生した際は上記入居者への連絡と並行し、然るべき機関に早急に連絡を行います。

【③修繕業者・提携工務店】
応急処置(ブルーシート・電気修理など)第一で依頼を行い、同時に修繕の為の原因特定・見積もり作成を依頼します。

【④保険会社(代理店)】
まずは被害の報告、被害項目・状況に応じて保険適用範囲の確認、是正見積もりがあがって来次第申請の準備・手続き開始に進みます。

リスク軽減・再発防止のために導入すべき管理体制

自然災害は予知が難しく、仕方ないものではありますが、発生してしまった際の被害を最小限に抑えることや、再発防止のためにできることは可能な限り行いましょう。

【建物の定期点検体制】
・年1回以上の屋根・外壁・排水口などの点検
・劣化が発見されたら即時修繕へ

【防災対策の導入】
・雨樋・排水溝の清掃(台風前には必須)
・倉庫・看板の固定具チェック

【情報共有ツールの導入】
・LINEやチャットアプリなどで入居者と緊急連絡が取れる仕組み
・管理会社とのクラウド共有

【保険内容の見直し】
・地震保険・水災補償の有無を毎年チェック
・範囲が狭い場合は特約追加を検討

【緊急対応マニュアルの整備】
・オーナー・管理会社・修繕業者の連絡体制
・トラブル事例別の初動対応フロー(テンプレート化)

まとめ

災害大国と言われている日本において、賃貸オーナーの心労は尽きることはないでしょう。

だからこそ、実際に発生してしまった際、いかにスムーズに対処し、被害を最小限に抑えるのかをシミュレーションし、事前に準備・対策を怠らないようにするのもオーナーとしての務めです。

ぜひこの機会にご自身の物件の自然災害に対する備えを見直してみましょう。